三億円事件の五十年 vol8 もうひとつの未解決事件

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警察は多磨霊園の墓石を片っ端から退かして石室内を調べたのだという。
奪った現金の隠し場所として、最適だという判断からだったのだろうか?
では、カトリック教会などの中は調べたのか?
聖母マリア像を退かして、その台座の中などは調べたのだろうか?
昭和40年代当時、我々日本人は外国人と外国語は酷く苦手であった。
この苦手意識は、警察といえど例外では無かったはずだ。

国土地理院より 昭和43年の航空写真
第四現場からサレジオ学園まで直線で500メートル程

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黒い福音 すべてはここから始まった

1959年(昭和34年)3月10日、BOAC英国海外航空(現ブリティッシュエアウェイズ)客室乗務員、武川知子(当時27歳)が遺体で発見された。
場所は青梅街道に程近い杉並区和田掘公園内を流れる善福寺川。
「BOACスチュワーデス殺人事件」である。
当初は自殺と見られていたが、慶応大学の司法解剖によって扼殺と判明。
捜査の指揮を執ったのは、後に三億円事件を担当することになる鬼刑事、
平塚八兵衛であった。
重要参考人として、ベルギー人宣教師ベルメルシュ・ルイズ(当時38歳)が平塚の事情聴取を受けている。
殺された知子は、ベルメルシュと交際関係にあったことが確認されており、
知子の遺体に残されていた体液が、ベルメルシュの血液型と一致していた。
だからといって直ちに「殺人犯」と断定することは出来ず、事情聴取は複数回に及んだ。
そんな中、ベルメルシュは突然本国に帰ってしまったのである。
理由は病気療養とか、本部からの異動命令だとか、曖昧なものであった。
ベルメルシュはサレジオ会に所属する神父で、
「ドン・ボスコ社」の会計責任者であったという。
「ドン・ボスコ社」とは、表向きは出版社であるが、
事実上サレジオ会の資金管理団体であった。
何れにせよ重要参考人程度では出国を阻止できず、
警察は逮捕状を取ることすら出来なかった。
その後事件は迷宮入りし、公訴時効となってしまった。
後に作家松本清張によって、小説『黒い福音』として執筆されている。
そしてこの事件の9年後に「三億円事件」が起きるのである。

ベルギー ブルージュ聖母教会のマリア像(筆者撮影)
ミケランジェロ作と云われ、マリアの表情が暗いと有名。
何故こんなに浮かぬ表情なのか?
答えは小説「ダヴィンチコード」でどうぞ。

神と悪魔の紙一重

それにしても、聖職者ともあろう者が人を殺めるのだろうか?
世界制覇を目指すカトリックにとって、極東アジアは当時はまだ未開の地であった。
特にカトリックの中でもサレジオ会は後発部隊で、
勢力拡大のために多額の資金を必要としていた。
戦争で焼け野原となった日本で、布教活動の他に救援活動も積極的に行っていたが、
その一方では、貴金属や時には麻薬の密輸など、悪事にも手を染めていたという。
「ララ物資疑惑」など救援物資の名のもとに、
統制品であった砂糖の横流しを行っていたのは有名だ。
こうした密輸などに深く関わっていたのが、英国海外航空(BOAC)である。
ブリティッシュエアウェイズの前身であるBOACに、
初の日本人スチュワーデスの一人として採用された武川知子は、
元々サレジオ会の乳児院で看護婦をやっていたという。
その時にベルメルシュと知り合ったのだろうが、要するに彼女は「運び屋」だったのだろう。
大方口封じのために「消された」に違いない。
なんら立証された事実は無いものの、ベルメルシュは自ら潔白を証明することなく、
逃げる様に帰国してしまった。
限りなくクロと言わざるを得ない。
警察は威厳を保つためか、「ベルメルシュの帰国は知らなかった」ことにしていたそうだ。
恥の上塗りと言うべきだろう。

ロンドン ヒースロー空港に駐機中のBOAC機
Wikipediaより

因果は巡る糸車、巡り巡って…

誰も疑いなどかけないはずの「聖域」で、取りざたされた深い疑惑。
何故か今でもサレジオ会関係団体には、
しばしば批判的な空気が取り巻くことが多いように感じる。
もう半世紀以上前の出来事ということもあり、事件そのものは風化している。
三億円事件とは一見何の関係も無さそうなこの事件。
私はこれが後に「引き金」となったのではないか? という想定で考えると、
新たな「三億円の使い途」が見えて来ることに気が付いた。
三億円は遊ぶカネなどではなく、組織を救うためにどうしても必要だったのではないかと…。
BOACの事件は当時国会でも取り上げられたそうである。
ひとつ間違えれば国際政治問題に発展しかねず、
そうなればベルメルシュ一人の問題では済まされない。
こんなことがもし「バチカン」の耳にでも入ったらどうなるだろう?
カトリックそのものの信頼を失墜させ、
最悪はローマ法王庁の存亡に関わってしまうかも知れない。
少なくともベルメルシュの有罪が確定していたら、
日本での活動継続は不可能になっていただろう。
部外者が知り得ぬだけで、実はカトリック内部でサレジオ会は、
存亡の危機にあったのかも知れない。
体制を立て直すためには、多額の資金が必要だった。
しかし、当時既に事業を急速に拡大させ、育英学院などの学校経営にも手を広げていたため、
サレジオ会にはそのような資金的ゆとりは皆無であった。
それを知った「犯人」は、現金輸送車襲撃計画を立案し、昵懇の神父にそれを打ち明けた。
幼くして戦災孤児となり、そのまま野垂れ死にしてもおかしくなかった身の上。
この世で生き永らえさせてくれた恩を、この機会にこそ返したいと願ったのだ。
多分そこでサレジオ会の神父は、次のように応えたのではないだろうか。

今私達が、資金を必要としているのは事実です。
だからといって、悪い事をしていいということはありません。
しかし、誰一人傷付けず、誰一人悲しませるようなことをしなかったなら、
あなたの犯した罪は、神がお許しになるでしょう。

銀行から金を奪ったところで、誰も悲しむ者などいない。 東芝の社員には少し気の毒だが、数日遅れでもボーナスは必ず支給される筈だ。 まして、銀行員に刃物を突き付けたりなどしない。 芝居を打つのだ、一世一代の大芝居で見事に出し抜いて見せる。
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