結論を申し上げると、
犯人は「天涯孤独」の人である。
映画「火垂るの墓」を思い出して欲しい、
あのような境遇の子供は沢山居た。
戦争に傷付き、戦争で家族を失い、
罪無くして全てを失った者にとって、
お金で得られる価値には執着が無い。
彼は「三億円」で「生きる意味」を買い求めた。
![3億円事件報道](http://tamaranzaka.net/wp-content/uploads/2016/12/misb5.jpg)
山ほどの遺留品を残して
彼は何処へ消えてしまったのか?
不運と幸運の狭間で
ひとりの身寄りもなく、親しい友人や恋人、まして配偶者など欲しいと思ったこともない。
ただし、生きる意味だけは失いたくなかった。
「天涯孤独」の人というのは、現代社会ではあまり想定できないかも知れない。
そういう性格の人は五万と居ても、
実際に全くの独りぼっちという境遇の人を捜すのは、きっと困難に違いない。
事件が起きた昭和43年、当時犯人の年齢層は20歳から30歳の間と想定されていた。
実際に犯人と接している銀行員の証言だが、人相についての記憶は怪しいものの、
性別と年恰好についてはそんなに大外れするはずはないだろう。
中間を取って、犯人は25歳だったとすると、彼は昭和18年生まれということになる。
太平洋戦争の真っただ中に生まれた彼は、父の顔を知らない可能性は普通に有る。
戦場で父親を失い、物心ついた頃に、空襲で母も失った。
親類縁者は家族同様に、散り散りになって音信不通、生死も不明のまま。
このような戦災孤児は、当時日本中に溢れていたのである。
![3億円事件現場](http://tamaranzaka.net/wp-content/uploads/2016/12/misb1.jpg)
府中市 通称学園通り
50年前の現場はあまり変わってはいない。
「火垂るの墓」のように、多くの子供は衰弱して死んでいっただろう。
しかし、運よく誰かに拾われて、養子縁組などで生き延びた子も居ただろう。
また、戦災孤児を収容する施設、「孤児院」なども各地に設置されていたという。
もしかしたら、彼はそうした施設で育ったのではないか?
例えば奨学金制度で高校を卒業後、就職して立派に独立を果たしたのではないか。
エリートサラリーマンである銀行員相手に、大芝居を打って見事に騙すことが出来たのは、
彼がそれなりの苦労人であったから、物腰や言葉遣いから怪しまれずに済んだのかも知れない。
「警察官」に扮する以上、そこそこ社会人としてのキャリアがあったことは事実だろう。
事件後に噂されたような「少年S」などというヤンキーでは、この犯罪は成し遂げられない。
まして、「遊ぶ金欲しさ」の短絡的犯行などでは、とうていあり得ない。
![3億円事件](http://tamaranzaka.net/wp-content/uploads/2016/12/misb3.jpg)
小金井市で発見された「タマゴロー」
しかし発見はあまりに遅過ぎた。
”何もない” という自由
天涯孤独の人生を運命付けられて育った犯人も、
成長するに連れ、他人との境遇の差を気にしない訳にはいかなかったと思う。
何故自分だけ家庭が無いのだろうと、ひがみやっかみの感情を抱いてもいただろう。
同時にアカの他人でありながら、親身になって育ててくれた施設関係者への感謝の念も、
決して小さくはなかったと思う。
彼は後者を選んで、その思いを糧に成長したのではないだろうか、
他人に対する感謝の思いが、彼を精神的に逞しくしたのだろう。
だからこそ日本の近代史に特筆されるような「大仕事」を成し遂げられたのだ。
しかも「施設育ち」であれば、その人間関係に恩はあっても義理はない。
養子縁組であれば、多くの場合個人的人間関係は永続的なものだが、
福祉施設であれば経済的独立と共に、自然と縁は薄まってゆくだろう。
成人を境に引かれた境界線は、彼を天涯孤独の身の上に戻し、
それは同時にしがらみの一切無い、自由な境遇を手に入れたとも言えるのだ。
彼は世間の人間が滅多に持たない独特の「境遇」を活かして、
「人生の意味」を勝ち取ろうとしたのではないか。
![3億円事件](http://tamaranzaka.net/wp-content/uploads/2016/12/misb4.jpg)
交番でよく見かけた貼紙
こんなにも多くの遺留品が、何の役にも立たないことを、犯人は知っていた?
彼の職業は何だったのか?
犯行の手口から犯人のスキルを分析することは、これまでにも多々行われて来たが、
改めて確認してみると、以下のような特徴が当てはまる。
1、多摩地域の地理を熟知している。
2、自動車の運転に相当慣れていて、構造にも詳しい。
3、情報通である。
4、細かい作業を厭わない、「趣味人」である。
5、平日日中にまとまった時間を確保できる。
このような条件を同時に満たしうる職業とは何かを、次回で考えたい。
![](https://tamaranzaka.net/wp-content/uploads/2018/11/03.jpg)
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