「立川はまことに縁起の悪い不吉な街である」。
大学陸上関係者が口を揃えるのも充分に頷けます。
新春の箱根路に憧れる大学陸上部の学生達にとって、
立川に立ちはだかる予選会のカベは、
ともすれば本戦のそれより高いハードルとなり得ます。
歓喜に飛び上がる選手達、失意に泣き崩れる学生。
毎年秋になると波乱含みの立川予選会です。
No more TACHIKAWA
残暑も消えて朝晩は冷え込みが感じられる10月、午前9時頃にドラマが始まります。
以前は大井埠頭で行われていた箱根駅伝予選会が、多摩の首都立川に来て何年目になるのか、
かつて東洋大学の山の神と云われた柏原さんが、ラジオ解説で語っていた言葉か思い出されます。
「立川は縁起が悪いので、僕達は買い物にも行きませんし、キホンあそこには誰も寄り付きません」。
随分と嫌われたものです、しかしそれだけこの予選会というのが、箱根を目指す大学生にとって、
厳しい試練の場となっているのだと感じます。
正月の本戦に於いてシード権を獲得した上位10校を除く、全50校が出場。
各チーム上位10人のタイムを合計して順位が決まります。
一人飛び抜けて速い選手が居れば、それだけチームにとって有利になることは間違いありませんが、
基本的にはチーム全体の力量が高いほど、上位で予選を通過することが出来ます。
そして何よりも箱根駅伝は、本戦、予選共に、
「10位と11位の間」が天国と地獄の境目となっているのです。
正月の大手町で涙を呑んだ選手、そして予選で地獄に堕ちる選手、
何れにしても彼らにとって、立川は「屈辱の街」なのです。
立川の予選会では、駅伝の象徴である「襷リレー」は見られません。
代わりに総勢600人にも及ぶ選手達が、陸上自衛隊立川駐屯地の滑走路を一斉にスタートします。
晴天なればこその強い照り返しの中を、ひたすらゴールを目指して疾走する選手達を見ようと、
沿道には地元の人たちが沢山応援に駆け付けます。
私もビデオカメラ持参で、滑走路の見える「すずかけ通り」にやって来ました。
スタート地点まで約1.5キロ、目いっぱいのズームで彼らの奮闘を収めました。
立ち上る陽炎の中、彼らの眼には何が映っていたのでしょうか?
ランウェイの彼方に見える箱根路は、行けど辿り着けない蜃気楼なのでしょうか。
選手達は、駐屯地内を2周すると一般道路に出て来ます。
私は11キロ地点に近い給水所に移動して、彼らを待ち受けることにしました。
滑走路を撮影した場所からは徒歩で10分とかからない場所でしたので、
まずは一服、ゆっくりと休憩してから撮影体制に入ることにしました。
歩道でタバコを吸っていたら、いきなり・・遠くに赤色灯が見えるではありませんか・・・。
まさか、と思い時計を確認すると、スタートからもうすぐ30分が経過しようとしています。
「選手が来ます、キケンですから歩道に上がって下さい」、パトのアナウンスにびっくり。
速い! なんという速さなのだ・・・。
陸上競技の観戦に慣れていない私は、「ペース配分」を誤ってしまいました。
そうか、一服したいのは私の勝手な都合、選手たちは先を急いでいたのですね。(^^;
慌てて煙草をポケ灰にねじ込み撮影再開、トップで給水所前を通過したのは、やはり外国人選手。
その後も何人かの外国人選手が通り過ぎ、やっと最初の日本人選手がやって来ました。
途端に給水所周辺の空気が一変、怒号に近い声を張り上げる大学関係者、
必死に母校の本戦出場を願ってか、悲鳴に近い女子学生の応援、
その中に混ざって地元の子供達の「ガンバレ」の声。
殺気立った空気を切り裂いて、次々と駆け抜ける選手達。
給水所では多忙のピークを迎えたのか、紙コップがカラカラと飛び散る凄まじいまでの「給水合戦」。
慣れた手つきで片っ端からペットボトルの水を注ぎ足す学生達・・・。
いつの間にかおびただしい数の紙コップが散乱する路上を、
一目散にフィニッシュへ向けて激走する彼らの後姿は、
正月の本戦に勝るとも劣らぬ迫力でした。
彼らの肩には「執念」というタスキが掛かっていたようです。
No more HUMILIATION
ところで、私の母校は明治学院大学です、未だ本戦出場はありませんが、
毎年少しづつ順位を上げて来てはいるようです。
でもやっぱり今年も駄目でした、来年も多分無理でしょう。
しかし諦めないでほしいと思います、あの青山学院大学も長く低迷した時代がありました。
上武大学や中央学院大学のように、新進気鋭の大学が伝統の壁を打ち破り、
箱根の常連になろうとしているではありませんか。
諦めなければいつかチャンスが廻ってくるでしょう、頑張れ!明学!!
最後に大学陸上部のみなさんへ、
平坦でどちらかというと無味乾燥だった大井埠頭に比べれば、立川の昭和記念公園は緑に囲まれ、適度なアップダウンもあり、季節的にはコスモスが揺れながら応援する中の予選会を、出来ればもっと楽しんで欲しいのですが、年が明けた正月に走ってナンボの箱根駅伝ですので、確かに立川は縁起の悪い街なのかも知れません。 しかし地元の人達は皆さんを応援しています、子供達は必死の形相で駆け抜ける皆さんの後姿を見ています。 そしていつの日か自分もそこを走ってみたいと、このようにして伝統が築かれてきたのだと思います。 箱根で会いましょう。
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