人にレッテルを貼る社会 三億円事件の五十年 vol 5

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私は犯人の職業を「タクシードライバー」、
とするのが最も妥当な推理と考えている。
しかし当然、タクシードライバーは世間に多数居る、
その一人が冤罪によって悲惨な最期を遂げている。
職業が推理と合致するから、後はテキトーに別件で、
という当時の警察による安易な捜査で、
後日にアリバイが証明されるという、世紀のお粗末。
事件が事件なだけに、報道による二次被害が深刻化。
このような世間の偏見に基づく誤った判断が、
迷宮入りの原因の一つではないかと思う。

3億円事件

多摩五郎が発見された小金井本町団地で
報道陣の質問に応える警視庁捜査一課長(時事通信より)

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少年は死に、現金は何処へ?

「他人にレッテルを貼る」という致命的過ちが、この事件ではもうひとつある。
事件の五日後に自殺したとされる、「立川グループの少年S」という人物についてである。
父親が白バイ警察官で、白バイや警察の勤務体制などにも詳しいとされる少年が、
あたかも犯人であるかのように扱われ、その後青酸カリによる謎の死を遂げている。
少年の葬儀には、事件当日犯人と接触した銀行員が、
「検死」と称して医師に変装した上で「面通し」まで行われたという。
その結果、「似ているようだが、違うかも知れない」などと、曖昧な証言をしている。
結局のところ、犯人が事前の伏線として金融機関への脅迫状を投函した日に、
少年は「鑑別所」に留置されていたことが判明し、これがアリバイとなった。
酷いことに、父親が警察官であることから、
「警察組織の名誉のために少年は父によって毒を盛られた」、という噂がまことしやかに流された。
考えてみれば犯人の罪は「窃盗罪」で、最も重くても懲役10年、
これに対し父親の犯した罪は「自殺教唆」に「犯人隠避」、
若しくは殺人容疑が課せられてもおかしくない。
こっちの方がよっぽど罪が重い筈である、
たかが勤務先のメンツのために、我が子を手に掛ける親がいるだろうか?
「警察官」という身分も、突き詰めれば「妻子を養うため」の職業の筈ではないか。
この過ちは、「もっぱら素行不良の人物」に容疑を絞る、当時の警察と世間の風潮がもたらした。
少年は暴走族の走りで、しばしば問題行動を起こし補導されていたために、
このような容疑が一方的にかけられていたのだ。

3億円事件

事件から7年経過
公訴時効を前に警視庁の記者会見

悪いヤツを捕まえろ、という落とし穴

同様の過ちが公訴時効の間際にも発生している。
犯人のアジトを巡ってのことだが、捜査において犯人のアジトを特定するか、
または領域を絞った捜査を行うのは定石であろうが、
時効が目前に迫り、焦った警察は目撃情報を鵜呑みにして、犯人のアジトは「日野市西南部」と断定。
更に、捜査の効率を高めるためか、捜査対象を「素行不良者」に絞って大々的な人海戦術を敢行した。
「ドロボーするヤツは悪いヤツ」という先入観は、警察だけでなく当時の社会に深く内在していた。
「犯人にも事情がある」とは、TVドラマ「はぐれ刑事純情派」の宣伝文句であったが、
社会も警察も「犯人の人間像」というものを完全に見誤っていた。
この事件を、その辺のコソ泥か、スリ、置き引き程度に考えていたのか?
「悪いヤツに決まってる」という決めつけが、賢明さを失わせていたとしか思えない。
当時の日本は、経済成長へ一途になり過ぎていたために、
善と悪の境界線をあまりにも濃く、しかも単純に描き過ぎてしまったのだろうか。

3億円事件

前回の記事でも書いたが、30分の事実以外何も解明されていないこの事件、
特にアジトに関する分析はこの事件のキモにあたる。
犯人は何処に居たのか、どのような日常を送っていたのか?
それが犯行にどう関り、どう影響したのか?
この検討は「その後」の彼の足取りを追う手掛かりにもなり得る。
次回は犯人のアジトに関して私見を述べることにする。

犯人が”三億円”と対面した場所とは 三億円事件の五十年 vol 6
ジェラルミンケースに付着していた泥から、 犯人のアジトは国分寺市恋ヶ窪周辺であると、 徹底したローラー作戦が展開されたが、 警察はその後アジトに関する情報を取り消した。 鑑定の結果、付着していた泥は「東恋ヶ窪3丁目」 にあった「栗林」のもの...

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